英文契約書の構成と表現

英文契約書の基本構造

一般的な英文契約書は、概要、以下のような構成で成り立っています。

  • ア 表題・タイトル(Title)
  • イ 前文(これは、頭書(Premises)と説明条項(Whereas)から成ります。)
  • ウ 本文(Operative Provisions)
  • エ 一般条項(General Provisions)
  • オ 結語(Closing)
  • カ 署名(Signature)
  • キ 立会人(Witness)
  • ク 添付書類(Exhibits)

このうち、(イ)前文の頭書(Premises)では、契約締結日(Execution date)、契約当事者(Parties)の氏名・住所、法人の設立準拠法等が記載されます。

次に、説明条項(Whereas Clause)は、「~ゆえに」という契約締結 の動機、目的ないし経緯を記すもので、これを受けて、「Now, Therefore in consideration of the mutual promises of the parties, it is agreed by and between the parties as follows:」とまとめるのが通常です。
上記のように、約因の存在は、説明条項の末文で示されることになります。このように、説明条項では、契約成立の背景等を概括的に把握することができますが、それ自体に法的拘束力はないとされています。ただし、間接的に契約全体の解釈の参考・指針にはされることになります。

そして、(ウ)本文(Operative Provisions)は、定義条項(Definitions)と実質条項で成り立っているといえます。
まず、契約書本文で繰り返し使われる語句は、本文冒頭の条文でまとめて定義を規定しておき、以後は重複してその語句の意味を説明しないという形式をとります。定義語は、大文字やクォーテーションマークを使用して強調します。なお、当該契約書が簡便なものである場合には、こうした定義条項を設けず、契約文中で最初に登場したときにカッコ書きでその語句を定義しておくのが一般的です。
次に、実質条項は、契約書の中核部分であり、当該契約の個性が最も表れる部分といえます。当事者間で取り決めた契約の基本的条件を規定することになります。

英文契約書の英語表現

法律英語の表現

英文契約書に用いられる法律英語では、古語や外来語が多く、ふだん日常英語で使用される用語も、法律用語として使われる場合には、特別の意味を持ってくることがあります。つまり、英文契約中に使用された場合と日常的な英文で使用された場合とでは、その語句の意味が異なってくるのです。例えば、considerationは、英文契約では「約因」とされますが、日常英語では「考慮」とされますし、partyは、英文契約では「当事者」とされますが、日常英語ではそのまま「パーティ」とされるのが通常です。

次に、英文契約書では、単数と複数では意味が異なってくる語句が使用されます。例えば、単数のconditionは「状況」と解されますが、複数のconditionsになると「条件」として法律的意味を持ちますし、また、単数のsecurityは「担保」と解されますが、複数のsecuritiesになると「証券」と解されることになります。

さらに、英文契約書では、現在使用されていないような古い語句が登場します。法律英語の世界では、歴史的にローマ法の影響を受け、ラテン語とともにフランス語が多く取り入れられた結果、そのまま外来語として用いられることが多くなったのであり、現在でも慣用的に用いられる語句が多くあります。例えば、bona fide 「善意の、真実の」や、in lieu of「~に関して」等です。

そして、英文契約書では、同じ意味の語が重複使用されることが多々あります。例えば、terms and conditions「条件」、 null and void「無効な」等です。 このような同義語の並列使用にも歴史的経緯があります。すなわち、アングロサクソン族の支配する英国にノルマン人が侵入し、征服を行ったことから(The Norman Conquest of England)、英語しか知らないアングロサクソン族とノルマンフレンチを話す支配階級との意思疎通のために、英仏同義語を併記する方法が取られたことが発端と言われています。このことが現在の英文契約書にも、名残として慣行的に残ったことになります。また、同義語を併記することは、単に意味を強調するだけでなく、各語の意味を併せ有することで、微妙なニュアンスを細大漏らさず、出来るだけ明確に法律的意味を表現する役割も果たしています。このような同義語の重複使用の結果、必然的に英文契約書は長大なものとなってしまうのです。

最後に、英文契約書では、特有の語句や言い回しが使用されます。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • Shall:「~しなければならない」という義務を表します。
  • Shall not:「~してはならない」という不許可ないし禁止の意味を表します。
  • May:「~してもよい」「~できる」という権利ないし許可を表します。
  • May not:「~できない」という不許可を表しますが、明確に禁止の意味を表す場合には、Shall notを使用します。
  • And/or: 「A and/or B」 という場合、「AおよびB」あるいは「AまたはB」のいずれの場合をも表します。
  • At one's discretion:「~の裁量で」「任意に」という意味を表します。
  • To the extent that:「~の範囲において」「~の限りにおいて」という意味を表します。
  • Provided/Provided, however that:「但し」という意味を表し、例外や条件を定める場合に使われます。
  • Without prejudice to:「~の権利を放棄することなく」「~の権利を損なうことなく」という意味を表し、ある行為により他の行為ないし権利を放棄したものとみなされないことを示します。
  • Subject to:「~に従って」「~を条件として」という意味を表し、契約の効力発生や効力消滅にかかる前提条件として使用されます。

独特な用語の使い方

上記歴史的経緯もあり、英文契約書では独特な用語の使い方が数多く登場することになります。

例えば、契約書前文で用いられるWitnessethは、Witness(~を証する)という動詞に三人称単数現在形の語尾である-ethを付けた古語です。フォーマルな英文契約書では依然として、このWitnessethが用いられています。すなわち、This Agreementを主語として(S)、Witnessethがそれに対応する動詞であり(V)、That以下が目的語(契約内容)となり(O)、最後にIn Witness whereof(以上の証として)で締めくくるという形式になっています。これは契約書全体が1文で表現された古い慣行を踏襲したものです。

また、hereやthereを使った複合語も数多く登場します。例えば、hereof(本契約の), hereto(本契約の), herein(以下、本契約中)や、thereof, thereafterなどです。

このうち、hereはthis Agreementを意味し、here+前置詞=前置詞+本契約(this Agreement)という構造になります。例えば、hereofは、of this Agreement(この契約書の)と置きかえられることになります。

次に、thereはthat(あるいはthose)を意味し、以前に一度は登場した語句を指すので、there + 前置詞 = there が指す前の語句+前置詞となり、hereと同様に、there + 前置詞 = 前置詞+thereが指す前の語句という構造に置きかえられます。